ここ数年で一気に需要が増えた映像コンテンツ制作。それに伴って映像制作会社や映像クリエイターに外注するのではなく、企業の内部で制作を行う「内製化」の動きも増えてきています
僕のところへも、2・3年くらい前から撮影・編集の方法や機材導入についてなど、内製化支援の問い合わせが増えるようになってきました
ですが、うまく内製化に成功したというのはあまり聞いたことがなく、むりやり内製化の体裁だけ整えたものの全然回っていないという例もいくつか目にします
というわけで今回は、企業の映像制作内製化にあたって、内製化のメリット・デメリット、向いている企業・向いていない企業など内製化について知っておきたい知識をご紹介したいと思います
内製化のメリット・デメリット
まず、企業がなぜ映像制作を内製化しようと思うのかそのメリットについてですが、これは大きく二つのことが挙げられます
- 制作コストを抑える
- 制作の進行スピードを上げる
たぶん多くの企業は、1.の「制作コストを抑える」ことを目的として内製化を進めていると思います。また、2.の「制作の進行スピードを上げる」についても、外部との打ち合わせなどを省くことで大幅なスピードアップを望めるため、内製化の大きなメリットのひとつです
では、次に内製化のデメリットについて見ていきます
- 人材など社内のリソースが必要になる
- 撮影機材・編集機材など導入の初期費用がかかる
- 安定した制作体制構築までに時間・費用がかかる
- 外注時ほどのクオリティは期待できない
ここで、最も基本的なことですが「内製化=タダ」にはならないということです。社内の人員を制作担当として充てる以上、その人が担当していた仕事は他で分担しなければなりません。また、撮影用のカメラ(スマホでも)、照明、録音機材や、編集用のPC、アプリケーションなど最低限の機材も必要になります。さらに、人と機材を用意しただけでは何も作ることができないので、外部のアドバイザーを入れて制作ノウハウを教わったり独学で学ぶ期間も必要になります(前者の場合は費用が、後者は時間がかかる)。さらにさらに、映像制作体制を構築できた後も4K・6K動画やドローン撮影、VR動画など日々進化する技術を学習するための費用(時間)や、新しい機材導入の費用などもかかってくるため「半年間教わればOK」というわけにもいきません
そして、これらのデメリット要素を克服できたとしても、映像コンテンツのクオリティが外注時以上になるということはなく、内製化で現実的に目指せるのはあくまで「ある程度の映像を作れるレベル」です(もちろん努力次第ではどんな作品でも作れるようになりますが)
というわけで、企業の映像制作内製化にあたっては、このメリット・デメリットをしっかり理解して取り組んでいく必要があると考えています
それでは、映像制作内製化を成功させるために必要なものは何か? 次からはこの点を詳しく見ていきましょう!
内製化のメリットを受けられる企業
まず、先ほどの項で説明した、内製化のメリット・デメリットのうちデメリットについてですが、先ほども書いた通り1.〜3.は費用に関するデメリットということになります。ということはまとめ直すと以下のようになります
内製化のメリット
- 制作のコストを抑える
- 制作の進行スピードを上げる
内製化のデメリット
- 初期投資とランニングコストが発生する
- 外注時ほどのクオリティは期待できない
それぞれ、1.の項目が「コストを抑える」のに「コストが発生する」と矛盾する内容になっていますね
つまり、1本ずつの制作費だけを比べると人件費(ディレクション・編集など)を計上することのない内製化の方が当然抑えられることになるが、内製化にはそれを実現するまでの準備期間(初期投資)と「社内リソースの利用」という制作費に計上されないコストがかかっているため、それを上回る供給量(映像作品の制作数)がなければお金の面でのメリットは少なくなるということです
この内製化コストを吸収できるだけの制作数(具体的な本数は後述)が見込めている場合は内製化を検討する価値があると考えます。ただし、デメリットの2.「クオリティ」を求める場合はこの範囲ではありませんので注意が必要です
また、メリット1.「制作の進行スピードを上げる」についても、「クオリティよりも速さ」「納期の都合で外注が困難」などの場合は導入を検討してもよいですね
というわけで、いったんまとめると映像制作内製化の恩恵を受けられるパターンは以下の通りです
- クオリティを求めない作品(ある程度のクオリティで十分)を量産したい場合
- 短納期などスピーディな制作体制が必要な場合
1.についてもう少し掘り下げると、セミナー・研修動画、商品・サービス紹介動画、インタビュー動画などは「ある程度のクオリティで十分」という条件に当てはまると考えます。逆に、プロモーションムービー、WEBトップページなどのイメージムービー、広告用動画などはクオリティの比重が大きいので内製化を目指すのは少し難しいかもしれません
また、制作本数についてですが、1〜2分程度の商品・サービス紹介動画を量産すると仮定した場合、10本制作の発注で外注費が概算200万円程度(撮影費込み)、構成・ディレクション・編集あたりの「ディレクター料」は100万円程度が一般的かと思うので、内製化の場合も「最低月10本制作で100万円の経費削減」というあたりがラインになるのではないでしょうか
内製化導入に向けて必要なこと
ここまで、内製化を目指すべき企業はとはどんな企業なのか、映像内製化のメリットとデメリットに注目して見てきましたが、最後にこれらの条件をクリアしていざ内製化を目指そう!という時にどんな準備が必要となるのか、簡単に解説していきます
担当ディレクターの選出
まずは担当者がいないと始まりませんので社内の映像制作担当者(ディレクター)を決めましょう。この際に数名のチームを組むのも良いと思いますが、全てを統括する「ディレクター」は決めた方がスムーズに進行できると思います
また、映像制作担当(ディレクター)は最低でも週1日は業務を全て映像制作活動に充てるようにしたいところです。私の経験上、2週間空くと感覚が戻らずまた始めから覚え直しとなってしまうことが多いと感じるので
必要な機材の準備
撮影を行う場合はカメラが必要になりますが、最初はスマホでも問題ないと思います。ですが、インタビューやナレーション(自録り)を行う場合はマイクを用意したいところです。最近のスマホは撮影は結構がんばりますが録音は全然なので注意が必要です。また、商品紹介動画などで商品撮影(物撮り)する場合は簡易な照明やバックペーパーなども欲しいですね
あと、編集用のPCにはそこそこのスペックが求められるのでできれば新規に調達した方がよいと思います。(オフィス用のPCでは少し厳しいかと思います)それに27インチくらいのディスプレイ、モニターヘッドホン。Premiere Pro・DaVinci Resolveなど編集用アプリももちろん必要です
外部アドバイザーの導入
これは必須ではありませんが、効率的に映像制作を覚えようと思ったら外部の映像クリエイターなどを社内に招致して制作ノウハウを教わるのはかなり効果的だと考えます
いまは映像制作に関してもネット上でカナリの量の情報が出ていますが、独学で覚えるのは結構大変な上どうしてもクオリティ面で差が出てしまうので、内製化だけどそれなりのクオリティは出したいという場合などは予算をかけても外部アドバイザー導入を検討する価値ありだと思います
必要なコスト
では、ここで挙げた「導入の準備」についてそれぞれどれくらいのコストが必要になるか、あくまで概算となりますが出してみたいと思います
項目 | コスト |
---|---|
映像制作担当(ディレクター)選出 | 週1日活動:6〜12ヶ月程度 週5日活動:1〜3ヶ月程度 |
必要な機材の準備 | 撮影用機材:5〜100万円程度 編集用機材:20〜50万円程度 |
外部アドバイザーの導入 | 1日:10〜20万円 1ヶ月50〜100万円 |
まず映像制作担当者については、週1日・月5日で制作体制構築まで6ヶ月〜1年程度はかかると考えた方が良いです。もちろんクオリティを無視してOKであれば別ですが、クオリティの足りていない動画を出すのはブランディング的にマイナスに作用することも多いので注意が必要です
機材については、スマホ・マイク・簡易照明程度で5〜10万円。カメラ(ミラーレス一眼orハンディカム)・三脚・マイク・照明・撮影セット(バックペーパー等)などある程度揃えるとなると100万円以上はかかることも。編集機材は、多く見積もって50〜60万円くらいあれば間に合うと思います。あと、Adobe Creative Cloudなどクラウドアプリを利用する場合は月額または年間の利用料金も発生します
最後に外部アドバイザーについてですが、「ある程度のクオリティ」達成まで教えられるような映像クリエイターに発注するとして1日10万〜20万程度は必要になってくると思います。1ヶ月50〜100万程度のコストが6ヶ月〜12ヶ月分必要という感じですね
外部アドバイザー起用に関しては、大手のクリエイター人材派遣会社などでサービス提供しているところがあるのでその辺りに問い合わせてみると良いかもしれません。もちろん僕へ依頼していただいてもOKですので!
最後に
今回は企業の映像制作内製化について、僕なりにいままで見聞きした経験をもとに解説させてもらいました
今後も映像コンテンツの需要は増え続け、企業が内製化を検討する機会も多くなると思いますが、その際に今回の記事が少しでも参考になれば幸いです
それでは、みなさんよきクリエイティブライフを!